2018.06.01

5年後にメジャーとなる手法を学び自分なりにエッジの立った分野を持て

マーケティングリサーチ会社のパイオニアとして知られるインテージでは、商品購入やサービス利用、メディア接触、行動、感情など多種多様なデータを活用して生活者のニーズを的確に捉え、企業のマーケティング活動のPDCAを全方位からサポートしてきた。2014年4月からは、新たに「データ解析サービス」をスタート。ビジネスの成長のためデータ分析・解析を行いたいが、社内に人材やノウハウがないという企業に向けて、これを支援するサービスを提供している。今回は、同社でデータ分析・解析を担う開発本部 先端技術部の山本直人氏、佐々木恭平氏に、同社におけるデータサイエンティストの働きと、そこで求められるものについてお話を伺った。

今回のキーパーソン

山本 直人 氏、佐々木 恭平 氏

山本 直人 氏(写真右)
株式会社インテージ 開発本部 先端技術部 部長
佐々木 恭平 氏(写真左)
株式会社インテージ 開発本部 先端技術部 マネージャー/チーフデータサイエンティスト
※組織名称等は、インタビュー時点のもの

データサイエンティストに求められるポイント

  • ビジネス理解能力、統計解析理論、プログラミング能力の3つのスキルセットを意識する
  • 学習意欲を高く持ち、自ら新たな技術の獲得に取り組み、5年後へ対応する
  • 自分なりにエッジの立った分野を持つ

データサイエンティストから営業のフロントメンバーまで、100名以上がデータ分析・解析に従事

昨今、データ分析・解析はビジネスにおける迅速な意思決定を可能とし、競争力の強化につながるという認識が高まる一方、人材やノウハウの不足から社内のデータを活用できない企業も多い。そこでインテージでは、同社が数多くのデータ分析・解析の専門家を擁し、データ分析・解析にも長けているという点を活かし、これを顧客に向けたソリューションとして提供していくことにした。これが2014年4月にスタートした同社の「データ解析サービス」である。
「データドリブンによる意思決定の時代がくるという判断から、当社のデータサイエンティストのスキルやノウハウを社外のお客様にも利用していただこうということになったのです」

そして、同社におけるデータ分析・解析を担っているのが開発本部 先端技術部である。同部は統計解析や機械学習などのスキルを用い顧客の課題を分析する、チーフデータサイエンティスト佐々木氏の率いるアドバンストモデリンググループ、流通業に特化した技術開発を担当する技術開発グループ、そしてR&Dを通じて同社の技術力強化や同社の保有するデータの価値化に取り組む先進グループの大きく3つのグループに分かれている。
「このうちのアドバンストモデリンググループがデータ分析・解析の専門部隊で、約10名のデータサイエンティストが、統計解析や機械学習の手法を活用しながらお客様の課題解決をお手伝いしています」

ただし、社内でデータ分析・解析に関わっているメンバーは他にもいる。先端技術部以外の別グループにもデータサイエンティストは配置されているし、普段から顧客に接するなど営業活動を行っているフロントメンバーの多くもデータ分析・解析について基本的な能力を備えている。アンケートの調査結果など顧客から預かったデータを現場のフロントメンバーが手早く集計すれば、調査結果を俯瞰し全体像を理解するためのファーストステップとなるからだ。

基礎集計の後はアドバンストモデリンググループが引き継ぎ、預かったデータのさまざまな要素を組み合わせてモデリングを実施。より精緻なデータ分析・解析を進めるという流れになっている。
「そういう意味では、アドバンストモデリンググループを中心とした先端技術部のデータサイエンティストとフロントメンバーを合わせた100名以上がデータ分析・解析に関わっているといえるでしょう」

ビジネスの変化へ柔軟に対応するため、さまざまなデータやツールを駆使

インテージで分析・解析しているデータの種類は多種多様だ。マーケティングリサーチが主要業務なだけにWebログや顧客属性、購買履歴がメインとなるのは当然として、画像や音声などのデータを扱う機会も増えているという。例えば、広告クリエティブ評価「Facial Compass」というサービスでは、動画が表情の解析に使われている。これは、人の顔の筋肉の動きから、対象がどのような感情を抱いているかを分類する理論(FACS理論)をベースに、視聴者が広告を視聴したときの直観的な反応を分析するサービスで、テレビCMやWeb動画を評価し、その改善に活かされている。

扱うデータの種類が多いだけに、同社のデータサイエンティストはさまざまなツールを使いこなすことが求められる。OSSを活用して新たにシステムを構築することもあれば、ITベンダーが提供する統計解析ツールを利用することもあるからだ。
「お客様の中にはスピード第一というところもありますし、深掘りした分析を望まれるところもあります。よって、状況に合わせてどのような技術やツールが必要なのかを議論し、都度最適なものを選んでいます。ゆえに、システムやツールを使い分ける必要が出てくるわけです」

データサイエンティストとして成功するためには、何より学習意欲の高さが大事

業務におけるデータ分析・解析の役割がますます大きくなってきている中、インテージではデータサイエンティストの獲得へ意欲的に取り組んでいる。

同社が採用面で重視しているのが、データサイエンティスト協会が提唱している3つのスキルセット、すなわちビジネス力(business problem solving)、データサイエンス力(data science)、データエンジニアリング力(data engineering)だ。
「当社の場合、ビジネス力をマーケティングを中心としたビジネス理解能力、データサイエンス力を統計解析理論、データエンジニアリング力をプログラミング能力に置き換えることができます。これらのどれかひとつにでもアレルギーがあると、当社でやっていくのは難しいでしょう」

その中でもビジネス力は欠かせないという。なぜなら、同社におけるデータサイエンティストの仕事は、単にデータを正確に分析すればよいというものではなく、顧客の課題を解決することであり、そのためには顧客のビジネスを深く理解している必要があるからだ。この他、業界や市場に対する知識、ものが売れる過程への洞察力も求められる。
「正直いって、そうした能力を学生さんや社会人になりたての方に求めるのは酷だと思います。そこで、最初の2、3年は現場に置いてビジネスのスキルを身に付けさせるようなローテーションも検討しています」

データ分析・解析のスキルについては、新人が最初からすべての領域をカバーできる必要はないという。回帰分析や因子分析といったレガシーな手法まで含め、共通言語となる分析手法の基本を十分に理解した上で、先端技術で自分なりにエッジの立った分野を持つことが重要だという。
「何より学習意欲の高いことが大事です。モデリングでも機械学習でもいいですが、新しい手法にまったく興味がないようでは当社で主戦力になることは難しいでしょう。なぜなら、5年後には今と違う手法がメジャーとなっているはずだからです。意欲的にそうした先端技術を学び、そこから自分なりのエッジを立てることができる人がデータサイエンティストとして成功するのではないかと思います」

インテージのデータサイエンティストが仕事から得られる喜びとは

インテージにおけるデータサイエンティストの仕事は、同社のコアビジネスがマーケティングリサーチにあることから、マーケティングにおける顧客の意思決定を支援することが中心となる。

例えばテレビCMの効果測定を担当するのであれば、回帰分析をベースとした手法を使い、投資に見合った効果が出ているかどうかを定量的に分析するというケースがある。この際には、社内に蓄積されたSCI(全国消費者パネル調査)やSRI(全国小売店パネル調査)、i-SSP(インテージシングルソースパネル)といったデータや、顧客提供データを利用することも多い。

しかし、そもそも「視聴者がテレビに何を求めているのか」を洞察することに興味がなければ、分析結果を評価することは難しい。まさに、データを介して「生活者の声」に耳を傾けることが、同社のデータサイエンティストの使命といえる。
「当社のデータサイエンティストが仕事から得られる喜びは、大きくふたつあると思います。ひとつは、分析で新しい手法を試した結果、予想以上の成果が得られたとき。もうひとつは、分析結果がお客様の意思決定に活用され業績向上に貢献したときです。前者はデータサイエンティストとしての喜びですし、後者はビジネスパーソンならではの喜びです。どちらも、分析に対する真摯な態度があって初めて得られるものです。」

インテージが求めるデータサイエンティスト像

データサイエンティストは流動性の高い職種ということもあり、同社のデータサイエンティストの多くが転職経験を持っている。彼ら・彼女らの前職は様々で、小売業や製造業でマーケティングを担当していたメンバーもいれば、競合他社からの転職組もいる。各メンバーはこれまでの経験を活かし、例えば小売業から来たメンバーならば、小売ならではの視点やデータの使い方を強みとしている。
「そうした意味でも、中途採用においては他のメンバーにはない強みを持つこと、すなわちエッジの立っていることが求められます」

一方、新卒の採用については、人材をより厚くしていくため、来春からデータサイエンスコースと銘打ち、専門性の高い学生を別枠で採用していくという。
「以前と比べればデータサイエンティストを目指す学生さんは増えているのですが、当社はマーケティングの会社というイメージが強いせいか、マーケティングをやりたいという学生さんの応募が多く、データ分析・解析をやりたいという人はほとんどいませんでした。そこで、まずはこうした印象を変えていく必要があると思っています。インテージはデータ分析・解析で十二分に活躍できる会社だと世間にアピールし、有能なデータサイエンティストが自然と集まってくるようにしたいですね。おそらくそれが、我々にとってのマーケティングになるのでしょう」

株式会社インテージ
設立 1960年3月2日 株式会社 社会調査研究所として創業
所在地 東京都千代田区神田練塀町3
代表者 代表取締役社長 石塚 純晃
業務内容 マーケティング・リサーチ、データ解析、デジタルマーケティングなどにより、生活者と顧客企業をつなぎ、マーケティング活動を支援する
URL:https://www.intage.co.jp/

カテゴリ
アーカイブ
記事アクセスランキング
タグ