2018.06.01
データサイエンスアワード2017最優秀賞受賞 産業能率大学様・東京地下鉄様インタビューvol.3
––– 今後のご構想をお聞かせいただけますか?
小西 川上さんが人事に移られて、いろんな部署に統計のことを教育されているので、そちらのほうが機能していくんじゃないですかね。
川上 今お願いして、全部署集めている狙いは、先ほどお話した通り、ICT戦略部というところで全データを共有できる仕組みを作ろうとしているので、それができた暁には、「線路のゆがみ」と「電線の減り方」の間に関係があるかもしれないとか、そういった部署を越えた因果関係といったものがわかるようになるのではないか、と考えています。
––– 今、別々の部署で管理しているものの間の因果関係が見えてくる可能性がある、と。
川上 そこに何か1本横通しをしてみたいな、と漠然と思っています。福中さんもそこら辺に気を使ってくださっていて、工務のチームに対して電気のアドバイスをとか、そういう進め方をしてくださっています。それが一つの展望ですね。あとは、「今後、AIでトンネルの変状の判定ができるだろう」みたいな話があるのですが、そういう認識技術をやりながら、機械的に判断したものと、人が判断したものとの相違がある部分を抽出して、「どっちが正しいのか」ということやりたいなと思っています。
今、多くの人は、人の仕事を機械で取って替えればいいじゃないかという話をするのですが、そうではない気がしています。恐らく、人が機械の力を借りて、人のミスとかを修正していくとか、反対に機械が間違っているかもしれないので、時には人間がフォローするという感じでお互いがサポートをしあうことで、もう1段階精度を上げられるようなことができればな、と漠然と思っています。
福中 AIを今後どう活用していくかというのは、僕のほうでも問題意識が強く、それをこうやって一緒に仕事をしていただける組織が折角あるので、どのようにうまく使っていけば、よりメトロさんの安全性を確保したまま、効率的なメンテナンスができるのかというテーマに繋げていければと思っています。
あとは教育ですよね、やっぱりうちとしては。人を育てるといったときに、どういうことがAIとかを使ってできるのだろうかということは、常に考えています。例えば、これは僕の勝手な予想なのですが、昔、データといえば、量的データだったわけですね。ところが今は、ビッグデータという形で、文字情報とか画像データとか音声データとか、そういった非構造的なデータが分析の対象になっている。今後、時代が進むと、どういうデータが出てくるのかというと、恐らく今度は人間の感覚情報というものがデジタル化されていく。要は視覚情報や聴覚情報だけではなくて、嗅覚、味覚、触覚といったいわゆる感覚といわれているデータが、多分、分析の対象になっていくだろうと。
そして、その集大成が恐らくVRとかARというようなものとして結実をしていって、それは教育に使えると思っています。例えば、メトロさんだと、今、検査を教育するのにも画像を使ったりされているのですが、それもVRとかARとかを使えば、より効率的で、現場の具体性を持たせた形で教育ができて、実践的な人材を最初から育てやすいというようなことが可能になるのではないか、という構想があります。そんな形で、新しいウエアラブルデバイスとか、AIとか、そういったものをいかに教育に結び付けながら開発していけるのかということを僕のほうでも考えて、一緒になってやっていければいいのかなと思ってます。
小西 私はずっと土木の分野でやってきましたが、この分野で今まで統計学をやっていた人がいないわけではないのですね。ただ、どちらかというと土木の中でも計画学みたいなものをやっておられる分野の方たちが中心で、私たちのような泥臭いところでやっている方は少なかったので、ぜひ広めていきたいなと思っております。
––– メトロの中に限らず、世の中全般に。
小西 世の中全般に、ですね。今、維持管理をメトロのデータだけでやっていますよね。でも他の会社がそれを使い出すと、倍とか何十倍のデータ量でいろんなことが判断できるようになりますので、また違った展開が出てくるのじゃないかなと思いますね。
––– 御社としては、ノウハウの流出になる、というお考えはないのですか?
小西 これで儲けようとしているわけではないので、それよりも仲間を増やしたい。先ほど川上が言ったiPadを使ったデータ収集のシステムなどは既に他社にも「使いませんか?」と提案しています。
川上 われわれが何とか作り上げてきたものは、汎用性があると思っていますし、この取り組みとシステムにより維持管理の質も効率も上がるので、非常に良いものだと思っています。特に他の事業者さんに繋いでいただきデータを共有出来れば、さらに分析の精度も上がりますので、ぜひ使っていただきたいなということが一つです。
例えば教育でもARをちょっと使っている事例があるのですが、統計学だとか学問を追究するとか、あとARという技術を追究するというスタンスではなく、僕らが維持管理していく中で、必要なことをそういう最新の技術で補うという、実務家の視点でやっているので、多分他の事業者さんでも導入しやすいだろうなと思っています。
それから、全国の地下鉄事業者さんには、若くてすごくやる気がある技術者が沢山おります。そこで、我々の開発した仕組みにアクセスしてもらい、メトロとデータ共有したり、可視化のシステムやθの計算をしてもらって、他の地下鉄事業者さんの維持管理の質を高めて頂く。そういうことで志のある技術者のやりがいとか、達成感や、新たな挑戦には絶対に一役買えると思っています。そこを我々メトロがこれまでの知見や、経験を持ってサポート出来たらなと思っています。もし必要な調査があれば、東京メトロの関連会社のメトロレールファシリティーズにご依頼いただければと思っています(笑)
あとすごく大事な点として、データを分析していて、「ああ、そうだよね、思っていた通りだよね。」という結果っていっぱいあるのですが、それも大切なことですが、本当に重要なのは外れ値だということです。やはり鉄道事業社って、経験としてよく知っていることから、めったに起こらない事象もあるのですが、このめったに起こらない事象とか外れ値って、もしかしたら何十万回に1回しか起こらないかもしれないですけど、1回起きると、よく起こっている事象とダメージを与える比重が一緒か、それ以上の時があります。よく起こっている事象は皆に知見があるので、いかに知見が少ない事象とか、イレギュラーなところを、ちゃんと前もってカバーできるかというところが重要になってくると思います。
そうするとやはりメトロだけじゃなくて、他の事業者さんにも集まっていただいて、お互いデータ共有することによって、外れ値だとかレアな事象をあらかじめ把握していければと思います。東京の地下鉄と、もしかしたらどこか外国の地下鉄でもいいのですけれど、メンテナンスについては個々の競合関係よりも、お互いサポートし合える関係が重要なのだと思います。
––– それが一番大きいですよね。競争関係にないので、お互いに単純にノウハウを共有し合って、お互いの質を高められる余地が大きいですね。
小西 地下鉄が安全だって、今も安全なのですけど、もっと安全だと思ってもらえれば、それがいいのかなと思いますね。
川上 最後には、全国の地下鉄を利用しているお客さまの安全性の向上に資するために、「やっぱりメトロがいてくれたから、俺らもやりがいあるのだよな」と言ってもらえる、各地下鉄事業者さんとの関係が作れるといいなと思っています。
––– ありがとうございます。大変勉強になりました。
- カテゴリ
-
-
DS関連NEWS
-
インタビュー
-
スキルアップ
-
コラム
-
教えて!DS
-
- アーカイブ
-
-
2024年
-
2023年
-
2022年
-
2021年
-
2020年
-
2019年
-
2018年
-
2017年
-
2016年
-
- 記事アクセスランキング
- タグ