2018.04.05

データサイエンスアワード2017最優秀賞受賞 産業能率大学様・東京地下鉄様インタビューvol.1

一般社団法人データサイエンティスト協会による「データサイエンスアワード2017」で栄えある最優秀賞に輝かれた産業能率大学様と東京地下鉄様に、お話を伺いました(全3回)。
※「データサイエンスアワード2018」のエントリー受付を開始いたしました!(2018年8月31日まで)

––– この度は、データサイエンスアワードへご応募いただきありがとうございます。あわせて、最優秀賞の受賞、おめでとうございました。

産業能率大学・東京地下鉄 ありがとうございます。

––– 受賞された企業さまを回り、インタビューをさせていただくことで、その先進的な取り組みを広く世の中に紹介するという趣旨で伺いました。今日は、よろしくお願いいたします。

産業能率大学・東京地下鉄 お願いします。

––– そもそもこのプロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?

小西 一番最初に考えたのは川上さんですね。

川上 幸一 氏

東京地下鉄株式会社
人事部 総合研修訓練センター 所長
川上 幸一 氏

川上 私はかつて、会社の民営化の前後で民間企業としてやっていくために必要と考えるいろんなことを整える仕事に、取り組ませていただいてきました。それが一段落した後に、民営化後も自分達の価値を高め続けることをずっと考え続けていました。先ずは、外注によって薄れてしまった、保守工事の技術をグループ内に取り戻すために関連会社を設立しました。その次に、東京メトロの保守の方法を効率的かつ効果的にして、地下鉄保守の標準にすることが出来ないかと考えました。

最初は軌道部門(線路の部門)で脈々と行われてきた点検とか検査とか修繕に関するデータを紙に書いて、場合によってはエクセルで管理してたものを、ちゃんとしたシステムで蓄積して、その蓄積されたデータから何か知見を出せないかなという発想を得ました。現場で暗黙知とされていて、ベテランから若手に伝えられていないものの中にもシステムに落とせば形式知化できるものがあるのではないか、と。実際に、軌道の分野で、データをためて「見える化」するところまで出来たのですが、軌道はすそ野が広くて、組織的にも一筋縄でいかないところもあり、3年間で志の半分ぐらいしか達成できずに、私は土木の部門に異動となりました。

次の土木の部門だと、過去10年分は検査と補修の記録があるということから、まずそれを全部データ化しましょう、と。そして、データ化したところを可視化して、ベテランの暗黙知になっていた、構築の状態の良いところ、悪いところをみんなで客観的に共有できる仕組みを作り、さらにそこから知見を出せないか、と考えました。具体的には、トンネルの不健康度合いを何とか数値化できないかということを考えました。それで、統計分析を勉強してみたりしたのですが、自分でこれを全部やるのは到底無理だなと思い、多少は勉強しながらもそういう分析できる人を探し続けました。そして3年ぐらいかけてやっと福中さんに出会い、私の考える「こういうことやりたいんだ」を実現してくださる色んなアイディアをいただいて、専門的に統計の処理をしていただくということが始まりました。

––– その出会いはどんな感じだったのでしょうか?

福中 もともと、川上さんが課長に昇進されたときに、東京メトロの昇進者向けの研修を産能大が請け負っていて、その研修を担当した産能大の研究員のつながりから、僕が呼ばれたという感じです。

川上 産能さんの研修で、これまでのキャリアの振り返りと今後のビジョンについて考えるセッションで、「僕、こんなことやりたい」みたいな話をしているときに、「君、それ面白いね」と講師が興味を持ってくれて、システム化まではその方にサポートいただいて、同時に僕が統計分析のことを一生懸命やりたいと思って四苦八苦しているのもご存じで、「産能さんにこういう方がいらっしゃるよ」ということでご紹介をいただきました。

––– 今回のトンネルの不健康度合いを数理モデル化するというプロジェクトへのご支援は、産能大さんとして、一般的なサービスとして提供をされているものなのでしょうか。非常に高度で踏み込んだ内容なので、初めてお聞きした時に、産能大さんが企業に対してそんな支援をされていること自体が、正直、驚きだったのですが。

佐藤 義博 氏

佐藤 私たちは、通常はお客様の組織や人の課題で研修を行う事業をやっていますけれども、やはり伺って話をお聞きすると様々な事業課題のご相談もいただきます。その際に私どもで出来るリソースがある場合には、今回のようにご一緒させていただく場合がございます。

福中 僕はもともと産能大の中で、能力把握試験とかを開発する部署に在籍していて、そこで統計データ解析をずっと専門でやっていました。川上所長からお話を伺ったときに、これは既存の統計解析手法をいろいろ組み合わせることによって解決できる問題だなという直観があって、もともと数理モデルを作ったりとか、アルゴリズムを組んだりというのは専門ですから、一緒にお仕事をさせていただく事になりました。

––– 川上さんはその時は、どちらのポジションにいらっしゃったのですか。

川上 軌道課長です。当時は、保線をやっていたのですけど、そのときから、そういうシステムを作り始めていましたが、土木課の仕組みも一緒に変えることがなかなか難しかったので、自分が土木課長になった時に、これ幸いと本格的に進めました。だから最初に軌道課長として福中さんに出会って、ご相談してやらせていただいたのは、線路のデータで特殊な摩耗状況が発生するのはどういった時か、という分析でした。

福中 そうですね。最初の頃は、トンネルには全く関係がない、まさに軌道、保線のためのデータ解析でした。それも、いきなりデータ解析をするということではなくて、土木課と軌道課のメンバーを集めて、統計学の基礎的な知識を一緒に身につけましょう、という教育から始まりました。そのメンバーと一緒に、実際にそこにあるデータを使って分析をしましょう、という流れから、今話にあがった特殊な摩耗の発生予測みたいなものをやりつつ、統計学も教えつつという研修の取り組みを半年ぐらいやったのが、始まりでした。

––– それで手応えを感じられて、(トンネルの)プロジェクトに発展されていったということでしょうか?

川上 そうですね。悶々と、トンネルの不健康度合いを何とか比較できるように、数値化したいなという思いと、変状同士の因果関係を明らかに出来ないかという思いがあって、保線データの分析プロジェクトの終わりの頃に、福中さんに「こんなことできませんか」と相談しました。

福中 まさにその研修の最後に課していたプレゼンテーションで、メンバーが順番に発表している中で、最後ぐらいに川上さんのほうから、「軌道のほうでいい結果が出たので、土木のほうでもこういう問題があるけど、それを解決するための手段ってありますかね」という相談を受けました。相談と言っても、雑談レベルだったのですけれど、「ああ、それだったらこういう方法が使えるかもしれませんね」みたいな形で話していたら、実際にそれが仕事になってしまったという感じです。

––– そこからどんな形で取り組みが進んだのでしょうか?

川上 最初は、やはり教育からしていただきました。

福中 公輔 氏

福中 今度は、土木課だけの教育にシフトをして、その中で僕が考えていた数理モデルを理解するためには、こういう前提知識が必要なので、それをまずは学んでくださいと。

というのも、今回依頼された内容のことを実践するには、発表したとおりマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)などかなり高度な知識が必要なので、それを単に分析して「はい、できました」と納品しても、多分その時点で「分からない」っていうことで終わってしまう可能性がありました。

ですから、最初は土木課の担当メンバーに、広く浅く統計知識から入って、その発展として、ちょっと難しいこともやってもらって、何とかMCMCあたりまでは講義で分かってもらえるぐらいになったときに、トンネルのデータをもらって僕のほうでも統計モデルを作って納品するということを並行でやりました。研修と受託の分析の二つのプロジェクトを同時並行で取り組みました。

小西 最初、第6回ぐらいまでやりましたね、半年間ぐらいで。

福中 そうか、その頃から小西さんにも参画をいただいたのですよね。

川上 統計だけの話だと、当然土木って経験工学の領域が多いので、統計分析に対する理解を先ず得なければならないという事と、もう一方のアプローチとして、工学的にしっかりと検証できるのかという事との組み合わせが大事だと思っていました。ちょうどそこに、担当部長として小西が、鉄道総合技術研究所からうちの会社に来てくださったので、彼は深い工学的な知見を有したトンネルの大家なので、最初からプロジェクトに入っていただきました。小西部長自体は、統計の新しい世界を学びながら、楽しんでいただいていましたが、同時に工学的な知見から、しっかりそういったことがいえるのかというところを評価いただいていました。

小西 私も統計学はそんなに強くなかったのですけど、具体的な事例を用いながら教えてもらったので、なかなか面白かったです。

福中 ありがとうございます。

vol.2は、こちら

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