2016.06.08
2016 第1回データサイエンティスト協会 セミナー
第一回データサイエンティスト協会 セミナー2016が5月20日、内田洋行 東京ユビキタス協創広場 CANVAS(八丁堀)で開催されました。本セミナーはデータサイエンティスト協会が定める、「Assistant Data Scientist~見習いレベル」の方を対象にスキルアップとコミュニケーションの場の創出を目的として企画されたもので、130人の定員に対し259人の応募(キャンセル待ち129人)があり、多くの業界から注目を集めています。
セミナーの講演はこれからデータサイエンスをビジネスに取り入れたいという人々にとっても分かりやすい内容で、データサイエンスを実務で活用するためのポイントが多く示されました。今回はその一部をご紹介します!
【登壇者】
塩澤 洋一郎氏
株式会社ブレインパッド アナリティクスサービス本部 本部長
10年間のコンサルタント経験と、6年間の通信キャリアでのビジネス経験を経て2012年株式会社ブレインパッドへ入社。一貫して法人クライアント企業へのコンサルティングサービス提供やICTソリューション提供に従事してきた。ブレインパッドでは、データ活用コンサルティングや、データ分析を用いた業務改革プロジェクトの推進を支援し、2014年7月より現職。
慶應義塾大学 SFC研究所 データビジネス創造ラボ 代表幹事
慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員(訪問)
山本 覚氏
データアーティスト株式会社 代表取締役社長
東京大学博士課程在籍時に松尾豊准教授の研究室で人工知能を専攻。その後アイオイクス株式会社のLPO事業にプロダクトマネージャーとして参画し、導入社数450社超のLPOツール「DLPO」の全アルゴリズムを開発。データマイニングを用いたウェブページの改善実績150社以上。論理化されたものはシステムで処理し、人が人にしかできない営みに集中する環境を作ることを理念として、データアーティスト株式会社代表に就任。現在はディープラーニングを用いたマーケティングメッセージの自動生成の研究を行っている。
パネルディスカッション モデレーター
眞鍋 尚行氏
株式会社電通 デジタルマーケティングセンター チーフ・データサイエンティスト
事業会社にて、顧客データベースを活用した大規模データ解析ならびに戦略立案に従事。 その後、金融系シンクタンクにて、主に金融機関向けの経営/マーケティング戦略のコンサルティング業務を経て、2010年1月に電通に入社。 電通入社後は、一貫してデータドリブンなマス×デジタルの統合マーケティングを推進し、R&Dに加え、さまざまなクライアントに対してソリューションを提供。
カスタマーエクスペリエンス戦略とビッグデータ分析 塩澤 洋一郎氏
顧客接点の最適化は、良いエクスペリエンスを持ってもらうことにより商品やサービス、来店のバリューをトータルに上げることであり、UI/UXにとどまる概念ではない、という塩澤氏。カスタマージャー二―を用いてWebの設計を良くしていくというトレンドがあるけれど、最終的なゴールはアクイジションも考慮してLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を向上すること。ただし、全てのデータを網羅的に把握しようとするとデータ量が膨らみ、処理しきれなくなってしまいます。それにはKGIをしっかりと設定することが大切、と強調されていました。
さらに、どのような顧客のエクスペリエンスを最大化していくのか。潜在的な優良顧客は短期的にどのようなメディアに接しているか、また長期的にはどのようなエクスペリエンスをしているのか。それぞれ全く違うアプローチとなるので、両方を同時に分析しようとすると破綻してしまいます。膨大なデータ量に飲み込まれないためにも、顧客に優先順位を付けて誰のエクスペリエンスを良くすればいいのかを決めないと、答えがありすぎて答えが出なくなってしまいます。分析テクニックを駆使する前にまず情報の整理をすることが大事、とのことでした。
ディープラーニングを業務プロセスに組み込むためには? 山本 覚氏
そもそもディープラーニングとは何か?より難しいことを解決するためには、考慮する範囲を広く深くして複雑に考えられるようにすればうまくできそうに思えますよね?しかし、実際は余裕がなくなって行き詰ってしまう。そんな時は段階をシンプルにすることによってスムーズに事が運ぶようになる、というニューラルネットワークの考え方を、組織の構成を例に分かりやすく説明してくださいました。
さらに実用面の話が続きます。まず、ディープラーニングを使うにはRとH2O(パッケージ)をインストールします。ラベルが付いた学習用データとラベルが付いていない予測対象のデータを準備し、H2Oパッケージ、データを順に読み込み、学習を行わせると予測ができるようになります。ディープラーニングがどう動いているかというロジックさえ理解すれば、それを実際に動かすのはRだけあればいいので商品化するところまでは出来る、とのことでした。
また、事前に人間がお膳立てしなくても、自動的に特徴を掴んで学習するようになったというのがこの50年間の人工知能研究の一番のブレークスルーと話す山本氏は東大松尾研の博士第一期生。現在、取り組んでいる東京大学との共同研究についての紹介がありました。LPO(ランディングページ最適化)にLINE(Large-scale Information Network Embedding)を使って大規模なネットワークを抽象化する技術で行動の生データを入れると予測精度が向上する、という成果が出たそうです。さらに今後は、別々に学習したものが繋がって協力し合うDeep Wide Learning(深層広域学習)で、人工知能がウェブ、マーケティングの領域を超えて人の役に立つようなことができるのではないか、と講演を締めくくりました。
パネルディスカッション
最後に電通 眞鍋氏がモデレーターを務め、パネルディスカッションが行われました。
― データサイエンティストの育成について、どのようにお考えですか?
未踏の領域に勇気を持って進む勇気があるか、自社の理念に共感しているかを重要視するという塩澤氏に対し、山本氏は知識の豊富さよりも皆とコミュニケーションを取れるか、つまずいた時に最後まであきらめずに考える力があるかといったコンピテンシーを見ながら採用していると話していました。
― データサイエンスを活用した仕事で思い出に残っているものは?
広告に関する論文が約1万4千件あるうち、4千件くらいがブランディングに関するもの、と切り出す山本氏。記憶をどう定着させ、文化を形成するかが大事であり、その中で大きなクラスタを形成しているのがタレントやセレブリティだったので、そこにデータで切り込んでいけないかと考えました。タレントの岡崎紗絵さんに関して、ツールを作ってターゲティングしたり、紗絵さんのウェブサイトを見た人がどんな他のサイトを見ているか、ビッグネームとの組み合わせの良さなどについて、実際にデータを分析したところ、最終的には分析対象の紗絵さんの誕生日会に呼んでもらえたことが一番の思い出(喜び)であると、プレゼン形式で熱く語ってくださいました。
― 今後のデータサイエンティストと人工知能との関わりは?
経営の判断に人工知能の活用を望む社員や経営者も出てくるかもしれないが、いきなり仕事がなくなることはないと考える塩澤氏。データ駆動型の人工知能のアドバイスを受けて人間が行動するようになることはあるかもしれないが、人工知能が人間の仕事を代替することによって新しい仕事が創出されるようになるだろうと予測しています。
最後に、人工知能は積極的に活用していくことが大事(眞鍋氏)であるとしたうえで、本当に人間にしかできないことは残る(山本氏)、人工知能はデータサイエンティストの良いパートナーになると思う(塩澤氏)と明るい未来予測の話でまとまり、本セミナーは閉会しました。
セミナー後には地下1階の会場で懇親会が行われました。多くの方がセミナー後も残って懇親会に出席され、ビールを片手に講演者との談話や参加者同士での情報交換で最後まで盛り上っていました。
次回のセミナーは7月に行われる予定です。データサイエンティスト協会の一般会員にはメールでお知らせが届きますので、お見逃しなく!
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