2018.05.18

データサイエンティストの採用に際しては、応募者と企業とのミスマッチの解消が重要

人材サービスを手掛ける会社として、1989年の創業以来、常に社会や労働市場の変化に歩調を合わせながら自己変革を繰り返し、顧客が求めるサービスの追求と提供に取り組んできたパーソルキャリア(2017年7月にインテリジェンスから改名)。同社では、社内に蓄積された膨大なデータをビジネスの創造や業務の改革に活かすべく、新たにデータソリューション部を設立。ここにデータサイエンティストを集約し、全事業を対象にしたデータ活用を推進していくことになった。今回は、同社 コーポレート本部 事業推進統括部データソリューション部 斉藤孝章氏と清田馨一郎氏に、同社のデータ活用について伺うとともに、人材サービスを提供する側の立場から、人材マーケットにおけるデータサイエンティストの採用の動向について語ってもらった。

今回のキーパーソン

斉藤 孝章 氏、清田 馨一郎 氏

斉藤 孝章 氏(写真左)
パーソルキャリア株式会社 コーポレート本部 事業推進統括部 データソリューション部 アナリティクス&テクノロジーグループ マネジャー
清田 馨一郎 氏(写真右)
パーソルキャリア株式会社 コーポレート本部 事業推進統括部 データソリューション部 アナリティクス&テクノロジーグループ シニアITアーキテクト
※組織改編にともない、2018年4月よりコーポレート本部は経営戦略本部に名称変更

データサイエンティストに求められるポイント

  • ビジネス、データサイエンス、エンジニアリングの3つのスキルを兼ね備えている
  • データサイエンス領域に十分なスキルを持っている
  • 知識の習得に熱心で、そのための第一歩を踏み出せる

 

各事業部やブランドにおけるデータ活用を全社横断的に支援

パーソルキャリアでは2017年4月、コーポレート本部内にデータソリューション部を設置。以前から活動していたデータアナリストのチームをベースに、事業戦略の企画・立案の担当者や、データ共通基盤の保守・運用を行うエンジニアなど、データ分析・解析に関わるすべての専門家をここに集約した。
「その理由としては、社内の各事業部やブランドで、社内に蓄積された膨大なデータを積極的に活用し、ビジネスの創造や業務の改革を進めていこうという機運が高まったことにあります。そこで、コーポレート本部にデータ分析・解析の専門部隊を置き、当社の全事業を対象に、ビッグデータ活用の企画・立案、実施を担うことになったのです」

コーポレート本部は、同社の各事業を支援するミドルオフィス機能と、企業活動を支援するバックオフィス機能を提供する部門で、さらには事業間やグループの企業間をスムーズにつなぐという役割も担っている。新たに設立されたデータソリューション部も、コーポレート本部に所属することで、各事業を横串にしたデータ分析・解析が可能になり、全社横断的な支援ができるようになった。
「当社の場合、事業部やブランドごとにビジネスの内容は異なりますが、『人材サービス』というベースは共通しています。各事業部やブランドで重複するデータも多いですから、データを横串で扱えた方がより戦略的なデータ分析・解析、そして活用が可能になるということです」

ビジネス、データサイエンス、エンジニアリングの3チームでデータ分析・解析に取り組む

現在、パーソルキャリアには12名のデータサイエンティストが在籍。データサイエンティスト協会が提唱する3つのスキルセット(ビジネス力:business problem solving、データサイエンス力:data science、データエンジニアリング力:data engineering)に対応するかたちで、ビジネス、データサイエンス、エンジニアリングの3チームに分かれ、データの分析・解析に取り組んでいる。
「メンバーの出自はさまざまであり、それぞれが違った強みを持っていますので、これをバランスよく配置しています。理想をいえば、メンバー全員がこの3つのスキルを兼ね備えていてほしいのですが、現実にはなかなか難しいことから、チーム全体でスキルを高めていければと考えています」

より深く、より広くデータ分析・解析を行うため、データサイエンティストを増員

パーソルキャリアでは今後、より深く、より広くデータ分析・解析を行うため、データサイエンティストを30名近くまで増やしていく方針だ。
「全社的なデータ活用が可能になったとはいえ、事業部やブランドごとに固有の課題もありますし、現場のニーズへより迅速・柔軟に対応するためにも、データサイエンティストの数を増やし、各事業部・ブランドに配置していきたいと考えています」

そこで同社はデータサイエンティストの採用に取り組み始めたが、ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の3つのスキルを併せ持つ人材の確保は難しいという現実に直面した。そこで、3つのうちの2つを持っていればよいとしたが、それでもなかなか人材は集まらなかったという。
「残念ながら、データサイエンス力に優れ、かつビジネス力あるいはエンジニアリング力のスキルも持っている応募者はほとんどいませんでした。そこで、いずれかひとつのスキルに強みがあり、他の領域についてはなんらかのモチベーションを持っている人材であればOKとし、採用後に育成していく方針に切り替えました」

社外向けサービスとしてデータサイエンティスト育成プログラムを提供

パーソルキャリアでは採用した人材のデータサイエンス力をいかにして育てていくかが大きな課題となったが、同様の課題は他社にも潜んでいると考え、データサイエンティスト育成・採用支援事業「Data Ship」を2017年10月にローンチした。データサイエンティスト協会のスキル定義などを参考に、社員育成で得たノウハウを活用した育成プログラムを提供するものだ。

具体的な内容としては、データサイエンスに興味を持つ学生や若手社会人に対し、オンライン型学習(Pythonや機械学習、基礎数学などの知識習得)、ワークショップ型学習(企業や他大学の学生とのワークショップによる課題解決の実習)、インターンシップ(企業での業務体験)という学習機会を3~6ヶ月にわたって提供し、データサイエンティストとしてのキャリア構築を支援する。
「当社は人材サービスの会社というイメージが強いため、データサイエンスやデータソリューションに取り組んでいることがなかなか外部に認知してもらえません。そこで、社内の育成に先進的に取り組むだけではなく、対外的にも「Data Ship」の提供を通じ、社会的なデータサイエンスの取り組みを推進していく会社でもあることをアピールし、データサイエンティストの採用にもつなげていこうというねらいがあります」

応募者と企業との意識がすれ違うデータサイエンティストの採用

企業におけるデータ活用は、製造やマーケティングなどの事業部門はもちろん、人事など間接部門においても必須となりつつある。しかし、「具体的に何から始めたらいいのかわからない」と頭を悩ませる担当者は多く、パーソルキャリアにもデータサイエンティスト採用に関する問い合わせが増えているという。

そして同社の分析によれば、昨今はデータサイエンティストの採用に際し、人材マーケットにおいて大きなミスマッチが起こっているという。
「たとえば、『機械学習』というキーワードで求人を行っても、趣味程度で実務経験のない人が応募してくるケースが多く、そのスキルも人によって大きな差があります。仮に100人の応募者があったとしても、企業が思い描くデータサイエンティスト像にマッチするのは数人程度でしょう。本当に自分がデータサイエンティストとして働きたいと考えているのであれば、積極的に勉強会へ参加するなどしてとにかく第一歩を踏み出し、実務経験につなげていくことが大切です」

その一方で、募集する企業の側もデータサイエンティストの定義があいまいなせいか、本来とは異なる業務で募集をかけていることが多いという。つまり企業もデータサイエンティストについてよくわかっていないということだ。
「加えて、データサイエンティストを採用してデータ分析・解析を内製化するか、それとも外部に委託するか、採用以前の段階で悩んでいる企業も少なくありません。採用活動を始める前に、社内におけるデータサイエンティストの位置づけを明確にしておくべきでしょう」

また、採用したデータサイエンティストをいかに定着させるかも、企業にとって大きな課題だ。
「当然ながら給与などの処遇面も大切ですが、なんといってもデータを分析・解析しやすい環境を整えることが重要です。課題解決に必要なデータを容易に入手でき、すぐに分析に取りかかることができれば、データサイエンティストにとってはとても働きやすい職場となるはず。また、データサイエンティストの専門性を評価し、スペシャリティを生かせる場を提供することも必要でしょう。取り組むべきことは多いと思います」

パーソルキャリア株式会社
設立 1989年6月15日
所在地 東京都千代田区丸の内2-4-1 丸の内ビルディング27F
代表者 代表取締役社長 峯尾 太郎
事業内容 正社員領域・アルバイト・パート領域の求人メディアの運営、人材紹介サービス、新卒採用支援、教育研修サービス、組織・人事コンサルティングサービスなど
URL:https://www.persol-career.co.jp/

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