2017.01.04

【人工知能ビジネスの最前線】 2016 第4回データサイエンティスト協会 勉強会 

年の瀬も押し迫る12月21日、第4回データサイエンティスト協会 勉強会が東京ユビキタス協創広場CANVAS(株式会社内田洋行本社内)で開催されました。テーマは「人工知能」。最近、メディアで「人工知能」や「A.I.」という言葉を見ない日はない、というほど人工知能の技術は注目され、私たちの暮らしの身近にまできています。今年の前半にはAlphaGoが世界トップレベルの棋士と碁の勝負をして圧勝し、また自動運転技術やロボットへの応用の研究なども世界中で盛んに行われています。このように人工知能関連のビジネス成長の期待が高まる中、具体的にどのような技術が開発され活用されているのでしょうか。本勉強会では、様々な業界で急速に導入が進められているIBM Watsonと、ビッグデータから様々な相関を導き出す Hitachi AI Technology/H(以下、AT/Hと略す)の技術的な話題と最新事例が紹介されました。100名近くの参加者が集まった2016年最後のデータサイエンティスト協会 勉強会の様子をレポートします!

 

【登壇者】
弥生 隆明氏
株式会社日立製作所
サービスプラットフォーム事業本部 デジタルソリューション推進本部 ビッグデータソリューション部 主任技師
AI関連サービスの提案、分析業務に従事。過去にはインドに赴任しビッグデータ文脈での研究開発、顧客提案活動に従事。

樋口 正也氏 
日本アイ・ビー・エム株式会社 コグニティブソリューション事業 常務補佐 事業戦略担当 事業部長
新潟県出身。京都大学工学部卒。日本IBM1993年入社。大和研究所、本社等にてソフトウェア関連事業、クラウドコンピューティング事業の立ち上げを行い、2009~2010年に米国ニューヨーク本社に赴任。2011年の震災直後より東北の復興支援、スマートシティ事業などに関わり、2012年より東北支社長、2013年北海道・東北支社長、2014年7月よりパートナー・アライアンス事業部ソリューション事業部長、Watson事業部 EcoSystem担当 事業部長を経て、現職。

ビジネス成長を加速させる人工知能 弥生 隆明氏

データが急速に大量・多様化している現在、データの活用領域や使い方がますます複雑化してきており、もはや人間の力ではデータを処理しきれなくなってきています。日立でも数年前からビッグデータ分析に取り組んでおり、仮説を立てて適した分析手法を選択し検証を行ってきましたが、データの量は増加し分析の技法もすぐに新しいものが出てくる中で、仮説検証を人手で繰り返すことに限界がある、という問題に直面していました。このような問題を解決するため、日立では「ビッグデータ×A.I.」を掲げ、仮説立案が不要な人工知能によるビジネス支援に取り組んでいます。

講演の様子

そうはいっても、人間は何もしなくてもいいという訳ではありません。売上、稼働率などのKPIは人が決める必要があります。するとそのKPIに相関のある要素を人工知能が分析し、抽出してくれるのです。人手で分析すると抜け漏れてしまう分析の観点も人工知能であれば先入観なしに機械的に網羅できるので、人が思いつかないような仮説を導き出すことができます。

日立の人工知能 AT/H の特徴は数値解析。データの量が多ければ多いほど、複雑であればあるほど人工知能を使う意義があります。実績としては金融・交通・流通等があり、目的としても業績向上だけでなくリスク低減やコスト削減にも利用することができます。

実際に AT/H を企業に導入する流れをご紹介します。工場(生産プロセス)があり、品質を改善したいが、どこに着目していいかわからないというケースがあったとします。KPIを製品合格率とすると、入力データは生産ラインから取得される温度や回転数など、それぞれのプロセスから得られるデータとなります。製品合格率の要因は一つということはなく必ず複数あるので、KPIとの相関が強いものを探し、特定を行うことが AT/H の役割となります。また、相関係数は重要なパラメータですが、該当数も重要な指標。KPIとの相関が高く、データの中に条件に合致するものが多い、という2つの指標でKPIに関連する条件を抽出することになります。

具体的な事例として、ホームセンターの店舗の顧客単価の向上のために注力商品を導き出すというケースがあります。POSデータだけでなく、店員や来客者の位置もデータとして AT/H に取り込んだ結果、目立つPOPや商品の位置ではなく、店員が店内に立つ位置が商品の売れ行きに影響を与えていることが分かりました。店員がどこに立っているかによって来客者の導線が変わるためです。また、物流におけるピッキング作業の効率を上げるという事例では、棚に設置されたセンサーから取得される商品の位置・品目名と作業指示書をデータとして AT/H に与えて分析を行ったところ、特定の時間、商品で起きている混雑が全体的な効率に影響を及ぼしていることが分かりました。そこで、混雑を避ける作業指示書を作るシステムを構築し運用したところ、もうこれ以上の効率化の手段がないと思われていた作業の時間が8%短縮されるという効果を得ることができました。

IBM Watson最新動向と事例 樋口 正也氏

IBM Watsonが得意とするのは非構造化データ、すなわち自然言語・音声・画像です。これまで社内ではずっと”コグニティブ”と言われてきたWatsonですが、今年10月にラスベガスで行われたIBMのユーザーイベントにおいて、Virginia Rometty CEOが初めて”A.I.”というキーワードを用いました。といっても、”Artificial Intelligence”ではなく、”Augmented Intelligence”の略、つまり人と機械が共存する世界、人を助けるという意味として”A.I.”と表現しています。

IBM Watson最新動向と事例 樋口 正也氏

事例を紹介していきます。製造業には製造品質向上、リコールの未然防止の問題があります。また、流通業には食品への異物混入問題などもあります。FacebookなどのSNSまたはコールセンターに来る問い合わせやクレームの声つまり自然言語を取得して分析し、早い段階で予兆していれば問題が起きる前に対応しておくことができます。一方で最近多いのは、コグニティブコマース(対話型コマース)というチャットボットを利用した買い物です。従来のECサイトのようにキーワードで商品を探すのとは異なり、チャットボットで人と対話しているように買い物をすることができます。例えば米国STAPLES社の”Easy Button”は、ボタンを押して何をいくつ欲しいと話しかけるだけで発注することができ、これはまさにコンシェルジュ機能といえます。また、これを車に応用したのがGMの”On Star”です。車のカーナビを対話に置き換え、ガソリンが減ってくるとガソリンスタンドの場所を示して会話で給油を促したり、75ヵ国5000万ヵ所の駐車場データを持つParkopediaと連携し、駐車する場所を案内することもできます。

日本においても、業界特化型のパートナーが増えてきています。株式会社空色はファッションブランド”オリーブ・デ・オリーブ”のLINE@アカウントのチャットを利用した対話型コマースで、自然な会話の自動接客システムを実現しています。また、木村情報技術株式会社では製薬業界に特化した情報をチャットボットで自動対応するというサービスを展開しています。さらにアウトドア用品のThe North Faceには、Watsonを使って行き先や時期・アクティビティに応じて最適な商品をリコメンドしてくれるモバイルショッピングがあります。

他にも、高い精度で年代や性別を識別する画像認識技術や、自然言語・音声・画像認識技を使ったスポーツの実況中継、映画のトレーラーの自動生成など、Watsonは様々なシーンで活用されています。

IBM Watsonを活用した自動接客システム

まとめ

お二人の講演の後のパネルディスカッションでは会場からの質問を受けて、データ分析作業の80%を占めるといわれているデータクレンジングの話題や、多数派のクラスタからは漏れてしまうロングテールへの向き合い方、また2社それぞれの人工知能の違いなどディスカッションが活発に行われ、閉会後も講演者のまわりに多くの人が集まり質疑応答が続いていました。

ディスカッションの様子

私たちの生活をより便利に、快適にしてくれると期待されている人工知能はすでにあらゆるところで実用化されています。一部では将来的に人間の仕事は人工知能に奪われてしまうのではないかとの懸念もありますが、今回紹介された2つの人工知能はいずれも人間をサポートし、共存していく未来が示唆されました。人工知能によってどのように世界が変わってゆくのか、今後のさらなる人工知能技術の発展が楽しみですね!

 

データサイエンティスト協会では2016年計8回のセミナー・勉強会を開催し多くの方にご来場頂きました。2017年もまた各界の著名人をお招きして様々なイベントを企画してまいりますので、どうぞお楽しみに!

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