2016.07.25
先入観なくデータを無色に見る ~滋賀大学 竹村彰通先生インタビュー~
日本初のデータサイエンス学部が設置される滋賀大学。その設立に深く関わるデータサイエンス教育研究センター 竹村 彰通先生に、お話を伺って参りました。
滋賀大学データサイエンス教育研究センターセンター長
竹村彰通 先生
1976年 東京大学経済学部経済学科卒業
1982年 米国スタンフォード大学統計学科Ph.D.
米国スタンフォード大学統計学科客員助教授、
米国パーデュー大学統計学科客員助教授を 経て
1984年 東京大学経済学部助教授に就任
1997年 東京大学大学院経済学研究科教授
2001年 東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻教授
2015年 滋賀大学データサイエンス教育研究推進室室長兼務
2016年 滋賀大学データサイエンス教育研究センターセンター長
— 現在の主な研究内容をお聞かせください
竹村: 2017年から滋賀大学でデータサイエンス学部をスタートさせる予定です。学生には、自分自身のアイデンティティとして「データサイエンスに必要な数学とコンピューターができる」と自信を持って言えるようになってほしいと考えています。そのために企業などと連携し、学生にはマーケティングデータや環境測定データなど、複数の領域のデータを使ってもらい、ビジネス領域に関する知識も身に付けてもらう予定です。
— データ活用に携わるようになったきっかけをお聞かせください。
竹村: 大学では経済学を専攻していましたが、当時の経済学は、近代経済学とマルクス経済学のどちらかしかありませんでした。そんな中、人間を個ではなく集団で物事を捉える、という数学を使ってデータを眺める数理統計学が自分の感覚に合っていたんです(竹村教授いわくその方が、気がラクだそうです)。また、計算機の性能が上がったことによって、検定理論のような純粋数学ではなく、理論をどう活用していくかといった応用志向が可能になったことも大きいですね。ちなみに学生当時はアルバイトでデータ解析などしていました。
— 専門領域のご研究や、データ活用に携わるに際して、どのようなスキルが必要でしたでしょうか?
竹村: 先に結論ありきではなく、あるがままにデータを眺めることが重要と考えています。先入観なくデータを無色と思って見るのがコツですね。ビジネス現場から一歩距離を置いて、データを客観的に判断できるスキルが必要です。また、どう使うか分からないとデータは捨ててしまいがち。データのモデル化についてもそうで、いろいろな基準でどのモデルが良いかを客観的に判断するスキルが必要です。
— スキルを習得されるに際して、どのようなことを行われたか、工夫したことや苦慮したことなど、何かエピソードがございましたらお聞かせください。
竹村: 常に勉強して行く姿勢が求められていると思います。従来は、データ分析の手法というと、時系列解析や多変量解析などと個別の手法を覚えれば良かったですが、今は、空間×時間といった複合的な要素を組み合わせて分析する力が求められています。さまざまな分野におけるデータへの扱い方を、実際のデータに触れる事で理解する事が重要なのです。従来の教科書に載っている手法を個別に勉強すればよいわけではないので、常に勉強していくしかありません。
例えば、スポーツデータの解析などを考えると、野球はピッチャーとバッターがいて分かりやすいですよね。しかし、サッカーは全体をどうデータとして捉えるのかが非常に難しいです。スタジアムの上からカメラで撮影すればよいのか、はたまた、選手同士のアイコンタクトをどう特徴量に変換すればよいのか、悩みは尽きません。
— ご専門領域の今後の発展性/方向性/新たな活用の領域に関するアイデアなどがございましたらお聞かせください。
竹村: ビッグデータによって色々なデータが取得できるようになったのは面白いと考えています。例えば、交通ICカードや携帯電話などによって、一人一人の行動情報が取得できるようになり、ネット通販では購買履歴データが蓄積されています。また、人々の行動の変化をとらえたい場合などは、データを差分で見る必要があるなど、扱い方が特徴的なデータが増えてきていることも興味深い。常々、データは社会的な効用があると考えています。データを持つ事業者から見た価値と外から見た価値は違っており、事業者が想定していない価値を発揮できることがある。例えば、人々の行動情報などは地域活性化にも活用できますね。
世界で成功するためには、革新的なアイデアがないと難しいでしょう。いきなり世界で成功するチャンスは少ないかもしれませんが、地方創生など、近江商人のようにローカルなニーズから対応し、世界で成功するというストーリもあると思っています。新たなアイデアを日本の中で見つけることが大切です。
日本は米国と比較すると、データ活用の分野で大きな溝をあけられています。1980年代から日本は「モノ作り中心」で進めてきましたが、米国は「データ中心」に舵をきっていました。「モノ作り」から「情報」に移った時から、データ関連への投資などを含め、日本と米国の格差が広がったと思いますが、昨今、IoTなど再び「モノ作り」にフォーカスがあたっているので、日本にもチャンスがあると思います。個別の事象を組み合わせ、全体として捉え・モデル化する事が肝要です。
— 先生が考えられるデータプロフェッショナル・データサイエンティストを目指す方に高めて欲しいスキルやマインド、その他メッセージがございましたらお願いいたします。
竹村: 「統計は使ってなんぼ」。最近はパッケージなどが色々出てきているのでデータ活用に取り組みやすくなっていると感じます。当然、統計の原理的なことは忘れてはいけませんが、データ活用に興味を持ち、まず一歩を踏み出して欲しいと思います。
取材日:2016/06/17(金)
取材メンバー:佐伯・孝忠・山本・田中
インタビューのアイキャッチ動画はNHK 「プロフェッショナル 仕事の流儀」番組公式アプリを使用しております。
アプリの利用、作成動画の本インタビュー記事への掲載に際しましては、利用許可を頂いております。
編集後記
スキル委員:孝忠
「先入観なくデータを見る」「客観的に判断できる人が専門家」非常に重要なことを教えてもらいました。データを見る目が曇った時は、竹村先生の言葉を思い出したいと思います。
スキル委員:田中
本企画では、私自身初めてのインタビューとなりました。データサイエンティストとして、またアカデミックな世界にいる者として、高い志を持ち、日本のデータサイエンティスト育成に貢献されようとしているその姿に感銘しました。
またインタビュー中、竹村先生は「データには「色」があるので「無色」で見るべき」と仰いました。データサイエンスの世界には様々な実務家・研究者がいますが、独特の表現をお持ちで大変興味深かったです。
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スキル委員:山本
大きく2つの発見があった。1つ目は、自分の中では、仮説をまず設定し、それをデータで検証する、という流れが最も効率よく成果に繋がると考えていた。しかし、竹村先生の発言の中に「データを見るときの態度として、あらかじめこうあるべきというのがあると、見方を間違ってしまう。」というのがあり、衝撃的な言葉であった。仮説を検証する場合も、無色な目でデータを見るように心がけたい。2つ目は、「ビッグデータには社会的な価値があり、データの活用には十分な説明が必要」という部分。データは適切に扱うと社会的な価値を生み出す。しかし、社会に対して十分に説明せずデータを利活用すると、プライバシーなどの不安を生み出し、社会問題になってしまう。両刃の剣であり、それ程ビッグデータには”力”があるのだと思う。